新年早々、海外から衝撃的なニュースが飛び込んできました。アメリカがベネズエラに対して武力行使を行ない、マドゥロ大統領の身柄を拘束して国外に移送したという事件です。アメリカの武力行使については、国際法が武力行使を正当防衛に限定し、紛争の平和的な解決を義務付けているため、違法行為とする批判の声が上がっています。確かに、他国の大統領を軍事力で強制的に排除する行為は、国際法上の違法行為に当たる可能性は極めて高いと言えましょう。しかも、中国が台湾の武力併合に向けて歩を進めている状況下にあっては、中国の武力行使のハードルを下げてしまうリスクもあり、日本国内の世論も、アメリカに対する批判的な意見に傾いたのです。それでは、この問題、どのように対処すべきなのでしょうか。
アメリカがベネズエラを攻撃した理由は、一つではありません。第一に、トランプ大統領が最も重要視したのは、ベネズエラが行なってきた国家ぐるみの麻薬密売です。既にマドゥロ大統領はアメリカの司法当局によって訴追されており、いわば‘お尋ね者’でした。アメリカ側としては、今般の軍事行動は、米国国内法(刑法)の域外適用の文脈にあり、自国の治安を維持するための措置であったことになりましょう。しかしながら、ここに、難しい問題が提起されます。麻薬の取締に対して警察力ではなく軍事力を用いることはできるのか、麻薬密売の元締めが外国政府であった場合であれば許されるのか、あるいは、麻薬密売は国際法上のテロ行為なのか(アメリカは、麻薬密売組織の「デ・ロス・ソレス」を‘外国テロ組織’に指定・・・)、といった問題です。なお、ベネズエラ側もアメリカの動きを察知してか、昨年末頃から自ら麻薬密売の取締を強化し、その実績をアピールしていました。
アメリカが挙げる第二の根拠は、ベネズエラのマドゥロ独裁体制です。アメリカは、不正選挙を理由としてマドゥロ大統領の当選を認めておらず、アメリカ側からすれば、拘束した人物は正統なる大統領ではなく、‘国家権力を簒奪している一私人’ということになります。となりますと、ここに、再び難しい問題が提起されてきます。ベネズエラ大統領選挙の正当性の問題にまで踏み込むことになりますし、国際法における古くて新しい議論、すなわち‘正戦論’にまで議論が及ぶからです(グロティウス等が提起した他国の暴君排除のための軍事介入は正しい戦争なのか、という議論・・・)。今年のノーベル平和賞は、ベネズエラの民主化活動家のマリア・コリナ・マチャドが選ばれましたが、ベネズエラでは民主化運動が弾圧され、国民の多くが抑圧的な独裁体制に苦しめられているとされます。米軍によるマドゥロ大統領の海外移送の報に、ベネズエラ国民が自由の到来に歓喜したとする記事を読みますと、アメリカの軍事行動は‘絶対悪’と決めつけるのも早計なように思えてくるのです。
今後、アメリカでは、国内裁判所によってマドゥロ被告を裁くことでしょう。しかしながら、公平中立な立場からの判決は望むべくもありませんし、国内法での有罪判決は、国際法における有罪を意味するわけでも、これによってアメリカの軍事行動の合法性が認められるわけでもありません。上記の諸問題から必ずしもアメリカの違法性が確定しているわけではないのですが、長丁場が予測される合法性の如何を争うよりも、違法性の阻却を主張するほうが早道かも知れません。そして、違法性の阻却事由において最も高い効果が期待されるのは、‘被害者の承諾’です。
アメリカの軍事力行使の結果とは言え、マドゥロ大統領が真に国民を抑圧してきた暴君であったならば、ベネズエラ国民は、アメリカによる同大統領の強制排除を支持し、事後承諾することでしょう。ベネズエラ国民の承認を内外に示すには、国民が自由に意思表示できる状況の下で、国民投票を実施するのが望ましいということになります(当面は、ロドリゲス副大統領が大統領職を代行する模様ですが、最低限、不正防止を徹底した上で早期に大統領選挙を実施すべきでは・・・)。ベネズエラ国民の事後承諾を得られれば、国際社会は、アメリカの軍事行動を一先ずは‘正戦’として認めることになりましょう。中国も、アメリカのベネズエラに対する軍事行動をもって台湾の武力併合を正当化できなくなります。
もっとも、以上の議論は、アメリカの軍事行動の理由が麻薬撲滅や暴君排除にある場合にのみ通用します。仮に、マドゥロ大統領が主張し、メディア一部も報じるようにベネズエラの石油利権が真の動機であるとしますと、アメリカは、自らの行動を正当化することは極めて困難となりましょう(つづく)。
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